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「源氏物語」夢浮橋(その2)

少し人々静まりぬるに、「小野の渡りに、知り給へる宿りや侍る」と、問ひ給へば、「しか侍る。いと異様なる所になむ。なにがしが母なる朽尼の侍るを、京にはかばかしからぬ住みかも侍らぬうちに、かくて籠もり侍るあひだは、夜中、暁にも、あひとぶららはむ、と思ひ給へ置きて侍る」など申し給ふ。「その渡りには、ただ近き頃ほひまで、人多う住み侍りけるを、今は、いとかすかにこそなり行くめれ」などのたまひて、今少し近く寄りて、忍びやかに、「いと浮きたる心地もし侍る、また、尋ね聞こえむにつけては、いかなりけることにかと、心得ず思されぬべきに、方々、憚られ侍れど、かの山里に、知るべき人の隠ろへて侍るるやうに聞き侍りしを。確かにてこそは、いかなる様にて、なども漏らし聞こえめ、など思ひ給ふるほどに、御弟子になりて、忌むことなど授け給ひてけり、と聞き侍るは、まことか。まだ年も若く、親などもありし人なれば、ここに失ひたる様に、かこつかくる人なむ侍るを」などのたまふ。




少し人々が落ち着いて、薫大将が「小野(現京都市左京区高野から八瀬やせ・大原にかけた一帯の古称)のあたりに、知っておられる家はありませんか」と、訊ねました、僧都は「ございます。たいそう粗末な所でございますが。わたしの母の尼が住んでおります、京にはほかにこれといった住みかもございませんので、母が籠もっておる間は、夜中、暁でも、訪ねようと、思っておる所でございます」と申しました。薫大将は「そのあたりは、最近まで、多くの人が住んでいたようですが、今では、たいそうさびしくなっているようですね」と申すと、僧都の少し近くに寄って、忍びやかに、「あやふやな話で恐縮ですが、また、これからお話しすることを、どうして聞くのかと、お思いになられるやもしれません、いずれにせよ、話すのも憚られるようなことですが、実はあの山里に、わたしの知る人が隠れていると耳にしたものですから。確かなことでしたら、どういう人か、などと聞かせもできましょう、と思っておりますうちに、貴僧の弟子となって、戒律をお授けになられた、とお聞きしましたが、本当のことでしょうか。まだ年も若く、親もおられる人です、わたしのせいで亡くなったと、恨み言を申す人がおりますので」と申しました。


続く


by santalab | 2016-04-08 18:06 | 源氏物語

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