Santa Lab's Blog


「源氏物語」夢浮橋(その18)

「御返り疾く賜はりて、参りなむ」と、かく疎々しきを、心憂しと思ひて急ぐ。尼君、御文引き解きて、見せ奉る。ありしながらの御手にて、紙の香など、例の、世付かぬまで染みたり。ほのかに見て、例の、物愛でのさし過ぎ人、いとありがたくをかしと思ふべし。「さらに聞こえむ方なく、様々に罪重き御心をば、僧都に思ひ許し聞こえて、今はいかで、浅ましかりし世の夢語りをだに、と急がるる心の、我ながらもどかしきになむ。まして、人目はいかに」と、書きも遣り給はず。

「法の師と 尋ぬる道を しるべにて 思はぬ山に 踏み惑ふかな

この人は、見や忘れ給ひぬらむ。ここには、行方なき御形見に見る物にてなむ」など、細やかなり。




「返事をいただければ、すぐに帰ります」と、よそよそしく言うのは、つらいことと思いながらも小君はせかしました。尼君は、文を開いて、浮舟に見せました。かつてと同じ筆跡で、紙の香なども、いつものように、世にないほど香りました。わずかに覗き見るだけで、たちまち心動かされる人ならば、たいそう趣きのある文と思うことでしょう。「ほかに伝てもなく、様々に罪深いことながら、僧都に許しをいただきました、今はなんとしても、悲しいこの世の夢語りでも、と心は逸り、我ながらもどかしく思っています。ましてや、人目など気にする余裕もありません」と、気持ちを書き尽くせないようでした。

「仏法の師と信じて僧都の許を訪ねました。師を頼りにしているうちに、思いがけなくも小野の山道に迷い込んでしまったのです。

この子のことを、お忘れになってはおられないでしょう。わたしは、この子を行方知れずになったあなたの形見と思って世話をしています」などと、心細やかに書いてありました。


続く


by santalab | 2016-04-08 22:20 | 源氏物語

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