Santa Lab's Blog


「太平記」千剣破城軍の事(その5)

楠木これを見澄まして、究竟くきやうの射手を揃へて二三百人夜に紛れて城よりろし、まだ篠目しののめの明け果てぬ霞隠れより押し寄せ、水辺すゐへんめて居たる者ども、二十にじふ余人切り伏せて、透き間もなく切つて懸かりける間、名越なごや越前ゑちぜんかみこらへ兼ねて、本の陣へぞ引かれける。寄せ手数万すまんの軍勢これを見て、渡り合はせんとひしめけれども、谷を隔て尾を隔てたる道なれば、たやすく馳せ合はするつはものもなし。兎角しけるそのあひだに、捨て置いたる旗・大幕おほまくなんど取り持たせて、楠木が勢、しづかに城中へぞ引き入りける。その翌日城の大手おほてに三本唐笠の紋書いたる旗と、同じきもんの幕とを引いて、「これこそ皆名越ながや殿より賜はりてさふらひつる御旗にて候へ、御文付もんつきて候ふあひだ他人の為には無用に候ふ。御中みうちの人々これへ御入り候ひて、被召候へかし」と云つて、同音にどつと笑ひければ、天下の武士どもこれを見て、「あはれ名越なごや殿の不覚や」と、口々に云はぬ者こそなかりけれ。




楠木(楠木正成)はこれを見届けると、究竟の射手を揃えて二三百人夜に紛れて城より下ろし、まだ東雲([夜が明けようとして東の空が明るくなってきた頃])が明け果てぬうちに霞隠れより押し寄せ、水辺に詰めていた者どもを、二十余人斬り臥せて、透き間もなく斬って懸かりました、名越越前守(北条時見ときみ)は防ぎ兼ねて、本陣へ退きました。寄せ手数万の軍勢はこれを見て、渡り合わせようとひしめき合いましたが、谷を隔て尾を隔てた道でしたので、容易く馳せ合わせる兵はありませんでした。そうこうする間に、捨て置いた旗・大幕などを奪って、楠木の勢は、静かに城中に引きこみました。その翌日城の大手([正面])に三本唐傘(北条氏名越流の家紋)の紋を書いた旗と、同じ紋の幕を引いて、「これこそ皆名越殿(北条時見)より賜わった旗であるが、紋が付いておるので他人には無用のものである。身内の人々よここに来て、持って帰られよ」と言って、同音にどっと笑ったので、天下の武士どもはこれを見て、「なんという名越殿の不覚よ」と、口々に言わぬ者はいませんでした。


続く


[PR]
by santalab | 2016-04-11 07:27 | 太平記 | Comments(0)

<< 「太平記」千剣破城軍の事(その4)      「源氏物語」手習(その3) >>

Santa Lab's Blog
by santalab
S M T W T F S
1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28
カテゴリ
以前の記事
フォロー中のブログ
最新のコメント
メモ帳
最新のトラックバック
ライフログ
検索
その他のジャンル
ブログパーツ
最新の記事
外部リンク
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧