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「太平記」小山田太郎高家刈青麦事(その1)

そもそも官軍くわんぐんの中に義を知り命を軽んずる者多しといへども、事の急なるに臨んで、大将の命に替はらんとする兵なかりけるに、遥かに隔たつたる小山田一人馬を引きかへして義貞を乗せ奉て、あまつさへ我が身跡に下がつて討ち死にしけるその心ざしをたづぬれば、わづかの情けによつて百年の身を捨てけるなり。去年義貞西国の討つ手をうけたまはつて、播磨に下着げちやくし給ふ時、兵おほくしてかてとぼし。もしいくさはふを置かずば、諸卒の狼藉らうぜき絶つべからずとて、一粒いちりふをも刈り採り、民屋の一つをも追捕つゐふしたらんずる者をば、すみやかに誅せらるべきの由を大札おほふだに書いて、道の辻々にぞ立てられける。これによつて農民耕作を棄てず、商人あきんど売買を快くしけるところに、この高家たかいへ敵陣の近隣に行きて青麦あをむぎを打ち刈らせて、乗り鞍に負ふせてぞかへりける。時の侍所さぶらひところ長浜六郎左衛門ろくらうざゑもんじようこれを見、ぢきに高家を召し寄せ、無力法のもとなればこれを誅せんとす。




そもそも官軍の中に義を知り命を軽んずる者は多しといえども、機に臨んで、大将の命に替わろうとする兵はいませんでした、遥かに離れていた小山田(小山田高家たかいへ)一人だけが馬を引き返して義貞(新田義貞)を馬に乗せ、その上我が身は跡に残って討ち死にしたその訳はというと、わずかの(義貞の)情けによって百年の身を捨てたのでした。去年義貞が西国の討手を承って、播磨に下着した時、兵が多くいたので兵糧が不足しました。もし軍兵に法を守らせなければ、諸卒の狼藉を絶つことはできまいと、一粒でも刈り採り、民屋の一つをも追捕([奪い取ること])した者は、すみやかに誅すべき由を大札に書いて、道の辻々に立てました。これによって農民は耕作を棄てず、商人は安心して売買しましたが、高家は敵陣の近隣に行くと青麦刈らせて、乗り鞍に負わせて帰りました。時の侍所長浜六郎左衛門尉(長浜光経)はこれを見て、自ら高家を召し寄せ、仕方なく法によるものなれば高家を誅殺しようとしました。


続く


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by santalab | 2016-09-13 12:30 | 太平記 | Comments(0)

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