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「太平記」小山田太郎高家刈青麦事(その2)

義貞これを聞き給ひて、「推量すゐりやうするにこの者、青麦に替身と思はんや。この所敵陣なればと思ひ誤まりけるか、しからずば兵粮にじゆつ尽きて法の重きを忘れたるかの間なり。いかさまかの役所を見よ」とて、使者を遣はして点検されければ、馬・物の具爽やかにありて食ひ物のたぐひ一粒いちりふもなかりけり。使者かへつてこの由をまうしければ、義貞おほきに恥ぢたる気色にて、「高家が法を犯す事は、戦ひの為に罪を忘れたるべし。いかさま士卒先んじて疲れたるは大将の恥なり。勇士をば失ふべからず、法をば乱るる事なかれ」とて、田の主には小袖二襲ふたかさね与へて、高家には兵粮十石じつこく相添へて色代しきたいしてぞ帰されける。高家この情けを感じて忠義いよいよ染心ければ、この時大将の命に替はり、たちまちに討ち死にをばしたるなり。自昔至今迄、さすがにさぶらひたるほどの者は、利をも思はず、威にも恐れず、ただ依其大将捨身替命者なり。今武将たる人、これを慎んでこれを思はずや。




義貞(新田義貞)はこれを聞いて、「思うにこの者は、青麦に身を替えようと思ったのではないか。敵陣ならばかまわないと思ったか、そうでなければ兵粮に困って法の重さを忘れたかであろう。ともかく(小山田高家たかいへの)役所([戦陣で、将士が本拠としている所])を見よ」と申して、使者を遣わして点検させると、馬・物の具([武具])はきれいなままでしたが食物の類は一粒もありませんでした。使者は帰ってこの旨を告げると、義貞はたいそう恥じた様子で、「高家が法を犯したのは、戦いのために罪を棄てたのだ。まこと士卒が腹を空かせるとは大将の恥である。勇士を失うために、法を乱用するものではない」と申して、田の主には小袖を二襲ね与え、高家には兵粮を十石添えて色代([儀礼的な言葉を述べること])して帰しました。高家はこの情けを感じて忠義をますます深くして、この時大将の命に替わり、たちまちに討ち死にしたのでした。昔より今に至るまで、さすがに侍と呼ばれるほどの者は、利も考えず、威も恐れず、ただ大将のために身を捨て命に替わるものでした。今の武将は、彼らのことを大切に思っていますか。


続く


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by santalab | 2016-09-14 08:43 | 太平記 | Comments(0)

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