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「太平記」北野通夜物語の事付青砥左衛門事(その14)

斗薮とそうの聖つくづくとこれを聞きて、余りにあはれに思えて、おひの中より小硯こすずり取り出だし、しよくの上に立てたりける位牌ゐはいの裏に、一首の歌をぞ被書ける。

難波潟 塩干にとほき 月影の また元の江に すまざらめやは

禅門諸国斗薮はつて鎌倉にかへり給ふとひとしく、この位牌を召し出だし、押領せし地頭が所帯を没収もつしゆして、尼公が本領の上にへてぞこれをびたりける。この外到る所ごとに、人の善悪をたづね聞きてくはしく注し付けられしかば、善人にはしやうを与へ、悪者には罰をくはへられける事、不可勝計しようげ。されば国には守護・国司、所には地頭・領家りやうけ、有威不驕、隠れても僻事ひがことをせず、世帰淳素民の家々豊かなり。




斗薮([衣食住に対する欲望を払い退け、身心を清浄にすること。また、その修行])の聖(鎌倉幕府第五代執権、北条時頼ときより)は話を始終聞いて、あまりに哀れに思い、笈([荷物や書籍を入れて背負う竹製の箱])の中から小硯を取り出し、卓の上に立てていた位牌の裏に、一首の歌を書いた。

難波潟の塩干を遠く照らす月影を、また元の江を照らすようにさせたいと思う。

禅門(北条時頼)は諸国斗薮を終えて鎌倉に帰るやいなや、この位牌を探させて、地頭が押領した所帯([所領])を没収して、尼公の本領とともに添えて与えた。このほか至る所ごとに、人の善悪を訊ね聞いて詳細に記し付けたので、善人には賞を与え、悪者には罰を加えること、数知れず([勝計]=[数え尽くすこと])。こうして国では守護・国司、所には地頭・領家、威を驕らず、隠れて僻事([過ち])を犯さず、世は正しくなり民はこれに従って家々は豊かであった。


続く


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by santalab | 2017-02-26 09:20 | 太平記 | Comments(0)

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