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「太平記」大内裏造営の事付聖廟の御事(その21)

その後本院ほんゐん大臣おとど受病身心とこしなへに苦しみ給ふ。浄蔵貴所じやうざうきそを奉請被加持けるに、大臣の左右の耳より、小青蛇こせいじやかしらを差し出だして、「やや浄蔵貴所、我無実のざんしづみし恨みを為散、この大臣を取り殺さんと思ふなり。されば祈療きれうともに以つて不可有験。加様かやうに云ふ者をばたれとか知る。これこそ菅丞相の変化へんげの神、天満大自在てんまんだいじざい天神よ」とぞ示し給ひける。浄蔵貴所示現じげんの不思議に驚いて、暫く罷加持出で給ひければ、本院の大臣忽ちにこうじ給ひぬ。御息女そくぢよの女御、御孫の東宮もやがて隠れさせ給ひぬ。二男八条はつでう大将だいしやう保忠やすただ同じく重病に沈み給ひけるが、験者薬師経やくしきやうを読む時、宮毘羅大将くびらだいしやうと打ち挙げて読みけるを、我が首切らんと云ふ声に聞き成して、すなはち絶え入り給ひけり。三男敦忠あつただ中納言も早世さうせいしぬ。その人こそあらめ、子孫まで一時に亡び給ひける神罰の程こそをそろしけれ。




その後本院大臣(藤原時平ときひら)は病いを身に受けて長く苦しみました。浄蔵貴所(平安中期の僧。三善清行きよゆきの子)を請じ加持を行わせると、大臣の左右の耳より、小青蛇が頭を差し出して、「浄蔵貴所よ、わたしは無実の讒言に沈んだ恨みを晴らすため、大臣を取り殺そうと思っておるのだ。祈療したところで有験([祈祷・祈願してその効き目があること])はないぞ。こう申す者を誰と思うか。菅丞相(菅原道真)の変化の神、天満大自在天神よ」と名乗りました。浄蔵貴所は示現([神仏が霊験を示し現すこと])の不思議に驚いて、しばらく加持を止めたので、本院大臣はたちまちに薨じました。息女の女御(藤原褒子よしこ?第五十九代宇多上皇の御息所。女御ではない)、御孫の東宮(慶頼王よしよりわう。第六十代醍醐天皇の皇太子。母は藤原時平の娘、藤原仁善子にぜこ)もやがてお隠れになりました。次男八条大将保忠(藤原保忠。ただし長男)も同じく重病に苦しんでいましたが、験者が薬師経を読んだ時、宮毘羅大将([天竺霊鷲山の鬼神で、薬師如来十二神将の筆頭])と声を上げて読んだのを、我が首を切ると声に聞いて、たちまち気を失ってしまいました(その後、早逝)。三男敦忠中納言も早逝しました。本人(藤原時平)はさておき、子孫まで一時に亡ぶ神罰は恐ろしいものでした。


続く


by santalab | 2017-04-06 08:43 | 太平記

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