かくて、石作 寺の薬師仏現じ給ふとて、多くの人詣で給ふ。大将の、「御物忌みし給はむ」とて、いと忍びて、一所、御供に人多くもなくて参り給へり。げに、いみじう騒がしきまで、人詣でたり。暁には、皆出でぬ。
そうこうするほどに、石作寺(かつて、現京都市西京区あたりにあったらしい)の薬師仏が示現したということで、多くの人が参詣しました。大将【藤原仲忠。右大将】は、「物忌みしよう」と、たいそう忍んで、ただ一人、供に人も多く付けずに出かけて行きました。噂通り、騒がしいほどに、参詣の者でごった返していました。通夜を終えて暁には、皆帰って行きました。
(続く)