Santa Lab's Blog


「梅松論」

いづれの年の春にやありけん。二月二十五日を参籠の結願に定めて、北野の神宮寺毘沙門堂に道俗男女群集し侍りて、あるひは経・陀羅尼を読誦し、あるひは坐禅観法をぎようし、あるひは詩歌を詠じけるに、更に闌夜らんやにて、松の風、梅の匂ひ、いづれもいと神さびて、心澄み渡りけり。かくてしばらく念珠の隙ありけるに、ある人の云はく、「かかる折節申せるは憚りあれども、御存知ある方もやあると思ひ侍りて、多年心中の不審申すなり。知ろしめす方もあらば、御物語あれかし。もつとも先代を亡ぼして、当代御運を開かれて、栄耀他に越えたる次第委しくうけ給ひりたく候ふ。誰にても御語り候へかし」と申し侍りければ、やや静まりかへりてありけるに、何某なにがしの法印とかや申して、多智多芸の聞こえありける老僧進み出て申しける、「年老ぬるしるしに、古よりの事ども聞き置き侍りしを粗々あらあら語り申すべきなり。失念定めて多かるべし。それを御存知あらむ人々助言も候へ」と申されければ、本人は申すに及ばず、満座「これこそ神の御託宣」と悦びの思ひをなして聞き侍りけるに、法印いはく、




いずれの年の春のことでしたか。二月二十五日を参籠の結願の日に定めて、北野(北野天満宮。現京都市上京区)の神宮寺毘沙門堂(東向観音寺)に道俗男女が集まり、ある者は経陀羅尼を読誦し、ある者は坐禅観法([真理と現象を心のなかで観察し念じる瞑想の実践修行法])に集中し、ある者は詩歌を詠じておりますと、さらに夜は更けて、松の風、梅の匂い、いずれもたいそう神秘的で、心が澄み渡るようでございました。そうこうしておりますとしばらく念珠の隙がございました折に、ある人が申すには、「このような場で申すのも憚られるが、ご存知のお方もあるかと思い、長年疑問に思うておることを申してみよう。知っておられるお方があれば、お話しくだされ。と言うのも先代(北条高塒たかとき。鎌倉幕府第十四代執権)を亡ぼして、当代(足利尊氏。室町幕府初代征夷大将軍)がご運を開かれ、他に越えて栄耀を極められた次第をくわしく承りたいと思うておったのじゃ。誰かお話ししてくださらんか」と申したので、やや静まり返っておりますと、何某の法印とか申して、多智多芸の聞こえある老僧が進み出て申されました、「年老いた証に、昔からの事をかいつまんで申して進ぜよう。失念もきっと多かろう。ご存知の人々よ助言されよ」と申したので、本人は申すに及ばず、満座の者どもは「これこそ神のご託宣よ」とよろこんで聞いておりますと、法印が申すには、


続く


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by santalab | 2018-01-29 10:28 | 梅松論

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