Santa Lab's Blog


2015年 07月 23日 ( 1 )



「曽我物語」小二郎語らひ得ざる事(その3)

小二郎こじらう聞きて、おほきに騒ぎ、「この事、いかが思ひ給ふ。当代たうだい然様さやうに成りては、親の敵、その数ありといへども、勝負を決する事なし。ただ、上意じやういを重くして、肩を並べ、膝を組む次弟なれば、これをはぢとも言はずして、所領しよりやうを持つ折節をりふしなり。当時たうじ然様さやうの事する者は、かうの者とは言はで、痴れ者とこそまうせ。まことに、敵をまのあたりにおきて、見給ふ事のめざましくは、京都きやうとに上り、如何にもして、本所ほんじよ末座すゑざに連なりて、院内の御見参にも入り、冥加みやうがあらば、御気色を窺ひ、院宣ゐんぜん令旨りやうじを申し下し、鎌倉殿に付け奉り、敵を本所ほんじよに召し上せ、記録所にて問答もんだふし、敵人を負かし、所領しよりやうを心に任すべし。君敵と成りては叶ふべからず。古人の言葉にも、『徳を以つて人に勝つ者は栄え、力を以つて人に勝つ者は、つひに滅ぶ』と見えたり。そのうへ、さばかり果報くわほうめでたき左衛門さゑもんじようを、各々の分限にて、討たん事は叶ふまじ。止まり給へ」と言ひ捨てて、立ちにけり。兄弟きやうだいの人々は、大事をば言ひ聞かせ、言葉にも掛けず、座敷を蹴立てられぬ。あきれ果ててたりける。




小二郎はこれを聞いて、ひどく驚いて、「何を申しているか、分かっておられますか。当代は栄えて、親の敵は、数多くおりますが、勝負を挑む者などありません。ただ、上意([主君・支配者の意見、または命令])に従い、肩を並べ、膝を組む世の中です、これを恥とも言わず、所領を持つ時代なのです。今は、謀反を起こすような者を、剛の者とは言わず、痴れ者と申すのですよ。まこと、敵をまのあたりにして、顔を見るのも嫌だと申すのならば、京都に上り、どうにかして、本所(朝廷)の末座に連なり、院の見参にも入り、冥加([知らぬうちに受ける神仏の援助・保護])あれば、気色を窺い、院宣・令旨([皇太子と三后の命令を下達する文書。のち、女院・親王・諸王らの文書にもいう])をも下されて、鎌倉殿(源頼朝)に届けて、敵を本所に召し上せ、記録所にて問答し、敵人を負かし、所領を我が物にすればよいことです。君(頼朝)を敵に回しては叶いません。古人の言葉にも、『徳を以って人に勝つ者は栄え、力を以って人に勝つ者は、遂に滅ぶ』と見えます。その上、あれほど果報めでたき左衛門尉(工藤祐経すけつね)を、そなたごときの分際で、討つことはとても叶いません。お止めなさい」と言い捨てて、座を立ちました。兄弟の人々(曽我祐成すけなり時致ときむね)は、大事を聞かせましたが、言葉にも掛けず、小二郎は座敷を荒々しく立って出て行きました。兄弟はあきれ果てました。


続く


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by santalab | 2015-07-23 21:27 | 曽我物語

    

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