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Santa Lab's Blog


「酔い源氏」手習(その6)

「何ものであれ、これほどまでに妖しいものは、きっと世にないだろう」と見届けようとしていましたが、「雨がひどく降ってきました。ここに置いたままでは、死んでしまいます。とにかく垣の下まで出しましょう」と言いました。僧都は姿を見て、「まこと人の姿をしておるな。人の命が絶えるのを見ながらにして捨て置くことはとても悲しいこと。池で泳ぐ魚、山で鳴く鹿でさえ、人に捕えられて死ぬのを知りながら、助けないのはとても悲しいことである。人の命は限りあるものだが、残りの命、わずか一、二日でさえ惜しまない者はない。鬼にも神にも魅入られ、人に捨てられ、人に騙されて、横様の死にをする者こそ仏は必ずや救ってくださるものだ。とりあえず、ためしに、しばらく湯を飲ませるなどして命を助けてみよう。それでも、死んでしまったなら仕方のないことであろう」と申して、大徳に抱きかかえさせて殿の内に運ばせました。弟子たちは「もってのほかの振る舞いをするものです。ひどく患う人の近くに、妖しいものを置けば、必ずや穢れが出て参ります」と非難する者もいました。また「たとえ変化の物であれ、目に見えながら、生きている人を、この雨で失うことは悲しいことではないか」などと、言う者もいました。下衆というものは、すぐに騒いであることないことを口にするものでした。僧都は人の騒がしくない奥の方に女を寝かせました。


続く


# by santalab | 2014-07-15 08:30 | 源氏物語


「曽我物語」畠山の重忠請ひ許さるる事(その3)

重忠しげただ居丈高ゐだけだかに成りて、「恐れおほまうし事にてさうらへども、平治へいぢの乱に、義朝よしとも討たれ給ひき。その御子として、清盛に取り込められ、すでに御命怪しく渡らせ給ひしに、池殿申されしに依つて、助かりましましぬ。その御喜びを思し召し寄り、彼らを御助け候へかし」。君御顔色がんしよく変はり、事悪しく見えければ、暫く物も申されず。悪し様なり、申し過ごしぬると存じて、ただ慎んでありける。やや暫くありて、君いかが思し召しけん、御あふぎをさつと開き、「げにげに重忠のたまふ如く、平家の一門、頼朝に情けを懸け、助け置きて、頼朝に退治たいぢをせられぬ。その如く、彼らを助け置きて、末代に頼朝亡ぼされぬと思ゆる。されば、彼らをば、一々に斬りて、由比ゆひの浜に欠くべし」と、荒らかにこそおほせけれ。




重忠(畠山重忠)は、身を乗り出して、「畏れ多いことではございますが、平治の乱(1159)で、義朝(源義朝。頼朝の父)が討たれました。その子として、清盛(平清盛)に捕らえられ、すでに命さえ危うくなられましたが、池殿(平時子ときこ。清盛の継室)が宥め申されて、助かったのではございませんか。その時のよろこびを思い出されて、彼らをお助けくださいませ」。君(源頼朝)は顔色を変えて、機嫌を損なうように見えて、しばらく何も申しませんでした。重忠はしまった、言い過ぎたと思って、ただ畏るばかりでした。ややしばらくして、君(頼朝)は何を思ったのか、扇<をさっと開いて、「確かに重忠の申す通り、平家の一門は、この頼朝に情けをかけ、助け置いたために、この頼朝に退治された。それと同じように、彼らを助け置けば、末代に頼朝は亡ぼされると思わぬか。ならば、彼らを、一々に斬って、由比ヶ浜で亡ぼすべきではないか」と、声を荒げて申しました。


続く


# by santalab | 2014-07-15 08:24 | 曽我物語


「酔い源氏」手習(その4)

尼たちが移って来るので、下衆たちで皆元気な者たちは、厨子所などの荷物を急ぎ運び入れました。それが済むと、ただ四、五人ばかりが妖しげなものを見に行きましたが、女はそこで泣いていました。


ともかくも怪しくて、時が移るまで見ていました。「もうすぐが明ける。人なのか何なのか確かめよう」と心の中では真言を唱え手印を作っていると、はっきりと姿が顕れて、僧都は「これは人だ。決して怪しいものではない。寄って声を掛けてみよ。死んではいないようだ。または死んだ人を捨てたが、蘇ったのかもしれん」と申しました。もう一人が「どうして人を、院の内に捨てることがございましょう。たとえ人であるにしても、狐、木霊のようなものが、人をたぶらかして連れて来たのに違いありません。かわいそうなことです。ここは穢れのある場所に違いありません」と言って、院の宿守の男を呼びました。声が山彦となって答えて恐ろしく聞こえました。


続く


# by santalab | 2014-07-14 19:58 | 源氏物語


「酔い源氏」手習(その5)

宿守の老人は腰が曲がり、顔ばかりを突き出すようにしてやって来ました。僧都が「ここには若い女が住んでおるのか。このようなことは今までにあったか」と言って宿守に女を見せると、宿守は「きっと狐の仕業でしょう。この木の下で、時々妖しいことをするのです。一昨年の秋にも、ここに住む人の子を、二歳ばかりでしたか、取ってここまで運んで来たことがございました。驚くことではございません」。僧都が「それでその稚児は死んだのか」と訊ねると、宿守は「生きておりました。狐は人を脅かしますが、人を殺すようなことはしません」と答えて、大したこととは思っていないようでした。夜更けの食事に連られて出て来たのでしょう。僧都が「ならば狐の仕業かも知れぬの。ともかくよく調べてみよ」と申して、恐れを知らない僧を近付けさせると、「お前は鬼か神か狐か木霊か。天下の験者が大勢おるのだ、隠れることはできないぞ。さあ名乗れ。名乗れ」と言って、衣を持って引き上げると、顔が衣に隠れてますます泣くばかりでした。僧は「なんとまあ、性質の悪い木霊の鬼だな。隠れようとしてもむだだ」と言って、顔を見ようとしましたが、「昔いたという目も鼻もない女鬼だったら」とふと思って気味悪くなりました。けれども頼もしく勇ましい姿を人に見せなければと思って、衣を引っ張って立ち上がらせようとしたので、女はうつ臥したまま声を上げて泣き出しました。


続く


# by santalab | 2014-07-14 19:58 | 源氏物語


「酔い源氏」手習(その3)

まずは、僧都が宇治院に向かうことになりました。「まことひどく荒れて、恐ろしいところじゃな」と思いました。「大徳たちよ、経を読め」などと申しました。初瀬の供をした阿闍梨と同じく僧都と親しい僧たちは、どういうことか、付き従う下臈法師に火を燈させて、人も近寄らない殿の裏の方に行きました。森かと思えるほど生い茂った木の下を「なんとも気味の悪い所よ」と言って覗き込むと、白い物を広げたようなものが見えました。「あれは何だ」と、立ち止まり火で明るく照らして見れば、何かがいるようでした。「狐が化けておるのか。小癪な、正体を暴いてやる」と言って、僧の一人がわずかに近付きました。もう一人の者は、「やめておけ、憑くかもしれんぞ」と言って、悪霊を退散させる手印を作り、遠くから見守っていました。もし僧に髪の毛があれば太るような思いがするほどでしたが、火を燈した大徳は、何のためらいもなく、軽率に近くに寄ってその姿を見れば、髪が長くつやつやとした女が、大木のそばでひどく泣いていました。僧が「不思議なこともあるものだ。僧都に知らせなくては」と言うと、もう一人は「本当に妖しいことよ」と言って、一人が僧都の許に参って「このようなことがございました」と告げました。僧都は「狐が人に化けると昔から聞いておるが、いまだ見たことはない」と申して、わざわざ下りて来ました。


続く


# by santalab | 2014-07-14 19:45 | 源氏物語

    

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